身上調査書

また今読んでいる「ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)」の話なのだが、この書では登場人物の「身上調査書」というものを作ることを提案している。つまり、登場人物の容姿や年齢などをまとめたものを作れということだ。まぁ、これはわしもそれなりに作るのだが、この書で提案しているその際に挙げておいたほうがいい項目のいくつかには驚かざるを得なかった。その中のひとつが「性経験の有無」である。それを見た瞬間に、そんな、エロ小説を書くんじゃあるまいしとあまく見ていたが(ちなみにエロ小説を卑下するつもりは無い)、よくよく考えてみると、これは大変重要なファクターであることに気がついた。


 今、わしがネタを暖めている小説の主人公は17歳の女性である。ジャンルは、あいも変わらずファンタジーフィクションだ。この書ではあるジャンルに傾倒するなと言っているが、わしはアマチュアなので、まずは自分も楽しくなければ書いていられないのでここは容赦してほしい。
 この主人公は、12歳で両親をなくす。旅芸人一座の座長の娘で、子役としてかわいければほかはどうあっても許されるような稚拙な芸から卒業し、役者として初めて舞台にあがったそのときに野盗襲われ、すべてを失ってしまうのだ。そして彼女は、その野盗の掃討部隊として雇われていた傭兵部隊に育てられることになる。
 座長の娘とはいえ、旅芸人の生活は厳しい。しかし、舞台に上がればそこは華やかな世界だ。しかし、傭兵は違う。団長は毅然とし、カリスマ性のある男ではあったが、彼女を特別扱いしたりはしなかった。しかし、彼女の行動を厳しく制限したりすることもなかった。仕事を与えはしたが、それを拒否するチャンスもいくつかの中から選択する自由も与えた。そんな中にあっても彼女は、いつしか自ら武器を取るようになった。それは、両親を惨殺し、すべてを奪い去った野盗がまだのうのうと悪事を働いていることを知ったからである。正義感よりもむしろ復讐というどす黒い感情が彼女を突き動かすのだ。

 さて、あらすじはこのような感じでいくつもりなのだが、わしはこんな彼女は果たして性経験があるのだろうか?と考えた。現代社会の倫理観からすると17歳の少女の性経験が云々というのはなんだが、この小説の舞台は、異世界ファンタジーの世界である。むりにわれわれの世界に合わせれば中世〜ルネサンス初期のヨーロッパだ。なので、性経験という面から見て17歳という年齢には格別な意味は無い。
 さておき、彼女は、性経験がないとしたらどうなるだろうか? 彼女は、どす黒い復讐の感情に突き動かされながらも、異性と接するときはまさしく乙女のごとき恥じらいを感じるのだろうか? 逆に経験があるとしたらどうだろうか? 復讐に生きながらもかつては二世を誓う恋人がいたのかもしれない。では、なぜ彼は今いないのか? そう。わしは、彼女が復讐を達するまではどこか孤独な存在として描きたいのだ。彼女は、悲惨な人生を歩んでいる。もしかしたら、レイプ被害者としての経験もあるのかもしれないとも考えられる。しかし、わしはその可能性はすぐに捨てた。なぜならば、厳格な傭兵団長は彼女を特別扱いしないことで女であるからこその受難から彼女を守ったからだ。そんな団長の下で働く団員なのだから、彼女に感じるのは友情と連帯感、ないしは、まかないの小太りの中年女性と同程度のセックスアピールなのだ。そしてまた、彼女は、見た目以上に強い。それがなぜかは明言しないが、精神的にもそして肉体的にも強いのだ。
 と、まぁ、このようにいろいろとイマジネーションがくすぐられる。さすがなぁとまた感心してしまうのであった。